薬の常識01.

5mg と 500mg どちらの薬が強い?

よくシートに書いてある数字(成分含量)だけを見て薬の強弱を判断する人が居ますが、当たってる場合もありますが、むしろ外れの方が多いというのが本当です。

例えば糖尿病の薬である「血糖降下剤」の一種でトルブタミドというお薬とグリベンクラミドというお薬がありますが、血糖を下げる目的で使う量としてはトルブタミドが250mgから500mg程度であるのに対して、グリベンクラミドは1.25mgから2.5mg程度(何れも1回のポピュラーな量)で、力価として約500倍程度の差があります。 これは何を意味しているかと言うと、「同じ効果をもたらす為に必要な量」として各々それだけの量が必要ですよという事です。

つまり、同じ効果を出す為に、トルブタミドなら500mg必要で、グリベンクラミドは1.25mgで十分だという事になります。 この場合、成分的には数字の少ない方が効果が強いという事になりますよね。

一方、同じ病気に使う薬でありながら、そのアプローチの仕方が違う場合は一概にそうもいえない事もあります。 上記2種のお薬は、どちらもすい臓を刺激してインシュリンの分泌を促し、血糖値を下げていくお薬で、一般にスルホニルウレア剤(SU剤)と言われています。

これとは別に、同じ様に糖尿病のお薬でも、食後に血糖値が上がらなくなる様にする薬があり、これは「食後過血糖改善剤」といいますが、その内アカルボースという薬は1回に50mgとか100mgを使います。 この種の薬は同じ様に血糖値が高くならない様にコントロールはしますが、SU剤と違って直接すい臓に働きかける事はせず、食事を摂った後に糖分が吸収されて血液中に入ってくるタイミングをずらして一気に血糖値が高くなるのを防ぎます。 この薬100mgと先ほどのトルブタミド500mgの場合、作用が直接的である分、トルブタミドの方が強く作用します。

この様に、お薬の強弱を述べるとき、単純に成分含量だけで言い表すことはできず、その薬がどういった性能を持っているのか、どういったアプローチをするのかが重要になりますので、数字の大小だけで強弱を語るのは危険ですね。

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薬の常識02.

赤い薬は劇薬ってホント?

例えば Rp
メチコバール(500μg)3錠
ニフラン(75mg)3錠 以上分3毎食後3日分

これらはどちらも錠剤自体は白ですが、メチコバールは真っ赤なシートで、ニフランは銀色のシートで出されます。 実はメチコバールはビタミンB12のお薬で、傷ついた末梢神経を修復する働きがあり、分類は「普通薬」です。 一方、ニフランは痛み、炎症を抑える目的のお薬で「劇薬」です。

Rp
ガストロフィリンA 2.0g
アルサルミン 3.0g 以上混合分3毎食後3日分

これらはどちらも胃炎、胃潰瘍などに用いる薬ですが、ガストロフィリンAは濃い緑色で、アルサルミンは真っ白ですが、実は胃に優しそうな緑の薬が劇薬(秤量して用いる場合)で、アルサルミンが普通薬です。この様に、お薬につけられた色は普通薬、劇薬、毒薬などを見分ける為のものではなく、成分由来の色だったり、糖衣をかぶせる時に意図的に着色されたものです。

昔は粉薬を扱う際に「普通薬が白または黄色」「劇薬が赤」「毒薬が青」に着色しており、今も見分けやすい様に調剤現場ではその名残がある薬局もある様ですが、このカラーリングを元にすると向精神薬ですが分類は普通薬である眠剤のハルシオンは青いので毒薬という事になってしまいます。 また最近は着色料自体を使わない傾向にありますから、地色がそのまま出ちゃう事も多いんです。 色を参考に強弱は語れないのですね。

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薬の常識03.

飲み薬と坐薬では内服薬の方が効果が高い?

多くの内服薬は胃の中で水分によってイオン化して、胃や腸で吸収されます。 胃の中で溶けない工夫がされているお薬も腸に入って(酸性からアルカリ性に変わってコーティーングが溶けて)同じ様なプロセスで吸収されていきます。

腸ではからだに要らない成分を吸収しない仕組みである「初回通過効果」という防御機能が働きます。 そこでお薬はある程度分解されて効力を失うものも出てきます。 運良く分解されずに吸収された成分は血液の流れに乗って肝臓に送られます。 肝臓はからだに不要のものを化学的に分解するところですから、ここで薬は二回目の分解を受ける事になります。 そこでも生き残った成分が初めて全身に流れて、目的の効果を発揮するという仕組みになっています。

ところが坐薬は直腸(肛門の手前の腸の最後)から直接成分が吸収されて、いきなり体全体を回ります。 初回通過効果も受けずに体を回り、肝臓に入るのはその後になります。 ですから同じ成分、同じ量を同じ目的で使用する場合、一般的に坐薬の方が効果が高いと言えます。

但し、最近のお薬には「初回通過効果」を利用して分解を受け、その結果として有効成分が体内で形成されるという「プロドラッグ」というものもあります。 これは内服薬の中でも強力かつ効果が高いものです。

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薬の常識04.

胃薬の緑色は着色されてる?

一般薬でいえば「サクロン」などが緑色をしています。 配置薬の中にも緑色をしたお薬が入っています。 この色は着色によるものではなく「銅クロロフィリンナトリウム」という成分の色です。 主たる目的は胃炎、胃潰瘍などの修復ですので、暴飲暴食で胃の壁が荒れた時に用います。

医療用ではガストロフィリンAなどのお薬がありますが、これも緑色です。 緑は胃ばかりでなく体に良さそうに見えますが、視覚的効果を狙った着色ではありません。

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薬の常識05.

薬剤成分が入っていない錠剤は効かない?

もちろんデンプンを「薬」と偽って飲ませても「薬理学的」に効果があろう筈がありませんよね。 然し飲む方が、それが「薬」だと思い込む事によって(或いはそう騙される事によって)薬ではないものに臨床的効果が出る事があります。 これを「プラセボ効果」と言い、心理的効果を狙う治療の際や新薬の効果を確かめる時に使われる事があります。

例えばAには医薬品を入れ、Bはデンプンを固めただけの見た目が全く同じ錠剤を作り、医師に渡します。 医師もどちらが本物の薬かは知りません。 知っているのはデータを取る責任者だけです。 これを被験者に投与して症状の改善度を探ります。 これを「二重盲検法」といいます。 この時、往々にしてBがAと同じ様に効くか、或いはBの方が効いている様なデータが出る事があります。 思い込む事によってデンプンでも効果が出るというのは不思議ですね。 昔から「鼻くそ丸めて〜」などと言いますが、これも「プラセボ効果」?(プラセボは明らかに意義のある場合を除いて実際の臨床の場で用いる事はありません。)

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薬の常識06.

漢方薬はお湯に溶かして飲むと効果が上がる?

漢方薬はもともと乾燥生薬をお湯で煮出し、そのエキスを飲むものが殆どです。本来の漢方薬では粉の状態で水で服用するという考え方はあまりありません。 ですから医療用のエキス顆粒製剤も、一部を除いて一般的にはお湯などに溶かして服用する事によって本来の効果が得られやすいのです。

例えば苦味性健胃薬を含む漢方薬の場合、その苦味が胃腸の働きを促すものなので、顆粒の状態で服用すると効果が低下します。 また初期の風邪に使われる葛根湯も発汗作用を十分に発揮させる為にはお湯に溶けた状態で服用するのが効果的です。

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薬の常識07.

元気という言葉?

上記で葛根湯の話が出ましたので蛇足的に。 初期の熱性の風邪のとき、葛根湯は目を見張る効果を発揮します。 この漢方薬は体の中に溜まった熱を外に放出させる働きがあります。 つまり体が病気と闘う為に準備した「気」というエネルギーの溜まりすぎ状態を平常に戻してくれる訳です。

ところが風邪がある一定のレベルを越えているのに葛根湯を使い続けると、元々の状態以上に「気」を発散させてしまい、エネルギー不足から次第に衰弱して風邪の状態が悪くなってきます。 そうなると「補気剤」という処方を使ってエネルギーを補う必要が出てきて「補中益気湯」などが使われる事になります。

この様に「気」というエネルギーの状態を「元」の状態に保つ事は非常に重要な意味があり、中国医学、とりわけ漢方の基本的な考え方は「エネルギーバランスを保つ」事に尽きるといっても過言ではありません。 中国医学に含まれる「鍼灸」なども「経絡」という気脈の流れを刺激して体調をコントロールする方法です。

「気」を「元」の状態に戻す事が「元気を出す」事になります。 そして、この元々ある状態に戻すという力は生物が皆、生まれたときから持っている重要な機能であって、西洋医学的には「ホメオスタシス(恒常性)」と言われています。 ただ、西洋医学と東洋医学の決定的な違いは東洋医学がホメオスタシスに基づく治療を行うのに対して、西洋医学は局所的な病気そのものを治療する点です。 双方が良い状態でバランスの取れた治療が出来れば素晴らしい効果を上げる事もあります。

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薬の常識08.

錠剤を水なしで飲めるって偉い?

薬を唾だけで飲める事を自慢する人は多い様です。 比較的お年を召した方に多いかも知れませんね。 けどこれはちょっとマズイことになるかもしれませんのでもう止めましょう。 というのは、多くのお薬は水分の存在があって錠剤が崩壊したり、成分が分散して吸収されていくのですが、水分がないとこの崩壊、分散ができなくなります。

またお薬が食道などにひっかかり、粘液などのごく少ない水分で崩壊して薬が濃い状態でその場に留まり「食道潰瘍」を起こしたり、運良く胃の中に落ちても、落ちた場所から移動できずに「胃潰瘍」を起こしたりする危険があります。

また分散が上手くいかなくて成分の吸収が遅れ、効果が出にくくなる事もあります。 お薬はできるだけお水やぬるま湯で飲みましょう。

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薬の常識09.

トローチは噛み砕いて飲むと効果が早い?

トローチは口の中でゆっくり溶けて、その溶け出した成分が口の中や咽喉に作用する薬です。 のんびり溶かして時間をかけて口腔、或いはのどの粘膜に作用させるように設計されています。

トローチは固いですよね?あれはすぐに解けてしまわないようにわざと固く作ってあるのです。 と考えると、噛み砕いて飲み込んでは何にもならないことになってしまいます。 トローチはゆっくり口の中で溶かしてください。

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